面影染め


藤枝町のはずれに一軒の小さな染物屋がありました。染物屋の若い夫婦は、貧しいながらも三歳になるかわいい娘と三人で幸せに暮らしていました。ところがある日、染め物の壷の近くで遊んでいた娘があやまって壷の中へ落ち、死んでしまいました。かわいい一人娘を失った夫婦はたいそう悲しみましたが、そうしているうちに初めてのお盆がやってきました。若いお母さんが一心にお墓に手を合わせていると、なくなったはずの娘が、きれいな着物を着て現れました。母親はとっさに娘を抱こうと手を差し延べましたが、娘はお墓の裏に逃げていってしまいました。気が付くと母親の手にはきれいな着物の袖だけが残っていました。それをじっと見つめていると、その袖もやがて消えてしまいました。母親は我が子がその時に着ていた着物が忘れられずとうとう自分でその模様を染め上げました。染め上げられたもようはたいそう美しかったので「面影染め」と呼ばれて、大変な評判になったということです。

更新日:2018年10月08日