朝比奈ちまき

更新日:2018年10月08日

(写真)ちまきの井戸

朝比奈谷は水清く山美しきところ、殿様の屋形(家)のあったことから由来がきている殿(との)に、「ちまきの井戸」と呼んで古くから村人が大切にしている井戸がある。この水を使って殿の部落では、ちまきを作ったという。

ちまきは、昔は白茅(ちがや)の葉で巻いたことからこの名があるが、五月五日の端午(たんご)の節句に食べた餅で、今は笹(ささ)や真菰(まこも)の葉などで巻いて蒸して作る。今でいう一種の保存食品で、作り方も秘法があったと言われ、村人は武家屋敷にまで出かけていって献上(けんじょう)したものである。武士たちも、なぜかこのちまきを食べると勇気百倍、いつ戦っても大勝したといい、戦場にはなくてはならぬものだったようである。

こんないわれのあるちまきもちには、いくつかの言い伝えがある。

殿の朝比奈氏の所蔵伝録に次のような記事がある。

「朝比奈家先祖密法の北ちまき、古時「堤中納言兼介公よりこの家に伝来す。このちまきの妙、年経るも味を失なわず、食(しょく)するに一両日空腹の心配なし。是(こ)れはなはだ妙なり。故に戦場には武将専らこれを愛玩(あいがん)す。今川公、武田公にも献上す。徳川家康公の御代、彦坂九兵衛に数度献上の仰せつけあり。その都度(つど)御目録拝領す。その後、諸国の名物相止(あいと)めの仰せつけあり。このちまきも献上相止申し候」とある。

また、次のような由来もある。

「朝比奈ちまき、元徳年の初め三浦合戦の折、つばきの木の柱魔(ま)をなしければ、その柱取り焼き灰となし、その灰汁(はいじる)をにてちまきを作りたるに、悪魔(あくま)を調伏(ちょうふく)し、これを食したるに元気百倍し、合戦大勝したるところより『朝比奈ちまき』と名づけ、五月五日の節句これを作り賀(が)したり」と。

朝比奈ちまきを作る法は秘法とされているが、つばきの木の灰汁を使うとか、山茶花(さざんか)の木の灰汁ともいい、どちらか知ることができないが、何か独特の作り方があったらしい。

ちまきを作るために水を汲(く)んだ井戸は、今も静かに水をたたえている。

 


「岡部のむかし話」(平成10年・旧岡部町教育委員会発行)より転載

(写真)朝比奈ちまき(復元)
(イラスト)キャラクター「朝比奈ちまき」ちゃん

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