小野小町の姿見の橋

更新日:2018年10月08日

今は昔の物語。岡部が寒村(かんそん)〈さびしい村〉であったころのこと。人家もまばらな頃のことだから道行く人も少ないのは当たり前の話である。この岡部の道すじにかけ渡した橋に残る小町むすめの哀れな物語である。

世界三大美人の一人、絶世(ぜっせい)の美女と世にうたわれた小野の小町は、父を良貞といって出羽守であった。その一女として生まれた小町は幼い頃からすぐれた才能に恵まれ、その上に顔かたちがすぐれ、人々の話題にのぼり大評判であった。

小町は成長するのにつれて歌道の修行をしその作品も立派なものが数多く、歌人の紀ノ貫之からも幾度か賞められていた。

晩年になったある時、京都から東の国へ行く途中に岡部の宿に泊まったことがあった。長旅と病弱の身のため、いつとはなくやつれてしまった。小町はこの宿場の橋の上で立ちどまり野山の景色の美しさに見とれていたが、ふと眼を橋の下の水面に移し、水にうつっている自分の姿を見つけた。自分の姿がひと頃の姿とかわり、やつれ果てていてあまりの変わりように自分の老いの身をなげき悲しんだのである。すぎし昔の面影はどこにも残っていなかったのである。水にうつった姿を疑いつつ岡部の宿を旅立っていったという。

この事があって宿場の誰が言うとなく、橋を小町の姿見の橋と名づけたという。今はこの橋も造りかえられて石の橋となり、さびしかった街道は人家が立ち並び、宿場も昔の面影を残さなくなってしまった。橋にまつわる物語だけが残ってしまった。橋の幅が三メートルばかりの橋を今ものぞいて見る人がいるのも不思議な事である。

 

「岡部のむかし話」(平成10年・旧岡部町教育委員会発行)より転載

(写真)小野小町姿見の橋

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