神様の怒りにふれた牛と魚

更新日:2018年10月08日

(イラスト)神様の怒りにふれた牛と魚

ひところまでは牛は田畑をたがやすのに大事な生き物であった。しかし、それにも増して大昔は神様のお使いとして神社の前に牛の形の像を作ってまつったり、牛の背中に乗って田んぼを見廻(まわ)り恵みを授(さず)けている画像(がぞう)もある。神様と牛との関係の深いことを物語っている。

六社神社(ろくしゃじんじゃ)には神様と牛とに関係する伝説が伝わっている。

いつの時代のことだろうか。朝比奈の新船に祭られていた神様は牛をたいへんかわいがっていた。しかしそこは動物のかなしさ、何か気に入らないことがあったのか、牛は怒って神様におそいかかり神様の目を角(つの)で突いてつぶしてしまった。さしもの神様もがまんができずに、この土地から牛を追い出してしまった。このことがだれ言うとはなしに言い伝えられて、この土地では神様の怒りがあるとおそろしいといって、牛を飼う人はいなかった。

しかし、時がうつり人がかわり農業の仕方も変り、牛がどうしても必要なこととなってきた。生産に欠くことができなくなってきたのである。でも信仰が厚い村人のこと故(ゆえ)、なかなか牛を飼うということに踏み切れなかった。その中の一人小柳津重吉は、住民に恵みも深い神様のことだから何とかお願いすればおゆるしがいただけるにちがいがないと、神様に深いお祈りを捧げたのち、村人がおそれていた牛飼いをやってのけた。そのことからどんな不幸がやってくるのか心配だったが、何事もなかったので村人は喜び、それから再び牛を飼うことになった。

つい先頃までは十数頭の牛が飼われていたが、機械化の波に押されてしまって今は一頭もいなくなってしまった。

また朝比奈川の清流には鮎(あゆ)がたくさんいる。清流には山女魚(やまめ)も住むというのが定説になっているが、朝比奈川にはこの山女魚が住まない。牛の話と同じく、六社神社の神様の怒りにふれて山女魚が住めなくなったのだという。どんな怒りをかったのかわかってない。山女魚が山の女の魚と書くことから婦人に関係しているのだろうという人もあるが、はっきりしていない。
最近朝比奈川に山女魚の稚魚(ちぎょ)を放流(ほうりゅう)したという。水温や日照、食性などからどの程度に繁殖(はんしょく)するだろうか注目されている。

「岡部のむかし話」(平成10年・旧岡部町教育委員会発行)より転載

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