三輪のかみなり井戸

更新日:2018年10月08日

あるとき、三輪の部落に雷が落ちた。落ちどころがいろいろあろうに、間違ったのかどうか井戸の中に落ちてしまった。その近くで働いていた人々はあまりの音に驚いて、おそれ伏していたら異様な声がした。その声がどこからだろうかと不思議に思い、そばの井戸の中をおそるおそるのぞいてみると、井戸の水の中で雷が溺(おぼ)れかけて苦しんでいた。村人は大急ぎで井戸のふたをかぶせてしまった。井戸の中の雷は苦しさのあまり、

「助けてくれ」

と叫んだけれども誰も助ける手をさしのべなかった。雷はうめきながら助けをたのんだ、「助けてくれたら二度と落ちないから」と。いままでいくども雷が落ちておそろしい目にあっていた部落の人々は、それならといってその願いをきき入れ、井戸のふたをとってやったら雷は天に帰っていった。それ以来三輪の部落には雷が落ちたことがないという。他の部落の人々も雷がなり出すと

「それ三輪部落に行け」

といったという。三輪の部落に行けば雷が落ちないで安心だというのである。

この井戸はどこの井戸かはっきりしないけれど、三輪の神(みわ)神社の境内(けいだい)にある井戸がそれだろうといわれている。この三輪の神神社(みわじんじゃ)では五月になると「ちまき」を作っており、これが雷除(よ)けの守護(しゅご)となっているといい、土地の人は農作業で野良(のら)に出かけるとき、このちまきを腰につけていったという。神社の井戸の水を使ってつくったので、雷が約束を守っているのだともいう。

ある年に一度だけ三輪の部落に雷が落ちた。よくよく調べてみると、その年は神神社のお祭りをていねいにやらなかった年だったとか。それ以降はお祭りは盛んに行われたという。またある時部落の境に雷が落ちたというので出かけてみたら、部落の境の一尺(30センチ)ばかり向うの部落側だったそうである。

雷がなるたびに三輪の部落の人々は、今もこの言い伝えを思い起こし、神神社の雷井戸の方角を向いて落ちないようにと祈るそうである。


「岡部のむかし話」(平成10年・旧岡部町教育委員会発行)より転載

(写真)神(みわ)神社のちまき

神(みわ)神社のちまき

(写真)神神社のちまき(中央部分に餅が入っている)

神神社のちまき(中央部分に餅が入っている)

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